「共創科」という「新しい普通科」:純真高校の開かれた教育
純真高校では、令和8年度に「新しい普通科」として「共創科」を開設しました。ただ、「共創科」という耳慣れない言葉や「新しい普通科」という枠組みについて、まだイメージのつかない方も多いのではないかと思います。そこで、今回は「新しい普通科」についてご説明しながら、純真高校の「共創科」が何を目指しているのか、お話できればと考えています。
「新しい普通科」とは?
令和3年1月の中央教育審議会答申において、「令和の日本型学校教育」の実現に向けた構想が示されました。
「令和の日本型学校教育」とは、急激に変化する時代に応じて、一人一人の児童生徒が、「自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手」となることを目指して、その資質・能力を育成するというのものであり、この答申では、そのために必要な改革を躊躇なく進め、従来の日本型学校教育を大きく発展させるという指針とその実現に向けた構想が示されました。
その構想の中に、「普通教育を主とする学科の弾力化・大綱化(普通科改革)」というものがあります。これは、「普通教育を主とする学科」を置く各高等学校が、各設置者の判断により、学際的な学びに重点的に取り組む学科、地域社会に関する学びに重点的に取り組む学科等を設置可能とするものであり、その教育課程において、学校設定教科・科目や総合的な探究の時間を各年次にわたって体系的に開設すること、高等教育機関や実社会との接続、国内外の関係機関との連携・協働体制の構築、コーディネーターの配置などが求められるものです。
そうした改革を推し進めるために企画されたのが、令和4年2月より公募された「新時代に対応した高等学校改革推進事業(普通科改革支援事業)」です。これは、普通教育を主とする学科の弾力化(普通科改革)や教科等横断的な学習の推進による資質・能力の育成を推進し、探究・STEAM教育、特色・魅力ある文理融合的な学び、今後の社会に望まれるデジタル人材育成等を実現する学科、即ち「新しい普通科」の設置を支援し、「令和の日本型学校教育」を普及させるというものです。このような「普通科改革支援事業」は令和5年度まで続き、「普通科改革」の流れは、やがて「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」と合流していきます。
「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」は、情報、数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、専門的な外部人材の活用や大学等との連携などを通じてICTを活用した探究的・文理横断的・実践的な学びを推進するものです。大学教育段階で、デジタル・理数分野への学部転換の取組が進む中、その政策効果を最大限発揮するためにも、高校段階におけるデジタル等成長分野を支える人材育成の抜本的強化が視野に入れられています。
「新時代に対応した高等学校改革推進事業(普通科改革支援事業)」と「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」の合流は、「新時代」と「デジタル社会」が切っても切り離せない関係にあるからでしょう。初年度にあたる令和6年度ではさほど強調されていませんでしたが、令和7年度からは「特色化・魅力化型」という枠が設けられ、前述した「新しい普通科」の推進が求められています。
純真高校における「普通科改革」
「教科横断」「文理横断」「総合的な探究の時間」「実社会との接続」などといったキーワードからも見て取れるように、「普通科改革」において求められているのは、教育を関係性の中で捉え直すことです。
科目や教科など、それぞれの専門領域に閉じられがちだった学びを、その他の領域や実社会へと開き、学びを他との関係性の中で捉えながら、そのつながりに価値を見出していくということ。そうした構造主義的なあり方が「新しい普通科」には求められています。
確かに「古今和歌集仮名序」とか「三角関数」といった枠組みの中だけで考えていても、その領域を深めることは難しいですし、その学びに意味を見出すこともなかなか難しいでしょう。「真名序」の存在が「仮名序」を相対化するように、あるいは、数学の概念が音響などの技術に応用されるように、学びは他領域との関係性に置かれて初めて、具体的な意味をもつはずです。
また、学校での学びに実社会とのつながりを見出せなければ、実社会はどこか縁遠いものとなり、そこで生きる自分の将来像が描きにくくなります。結果として、将来の夢という問いに対しても、「どうでもいい」や「普通」と答える生徒がどうしても多くなってしまうでしょうし、学校に行く意味そのものを見出せなくなる生徒が増えるのも、自然なことなのかもしれません。
注意されるのは、この状態で学校は「社会に出るための準備」という機能を果たせていると言えるのかということです。もちろん、「学ぶ意味」は人それぞれでしょう。ただ、将来のことを考えると、その意味を社会との関係性で捉えた方がイメージしやすくなるはずです。「そもそも、自分は何に興味があるのか?」「社会に出て、何がしたいのか?」「だから、今、あるいは将来、何を学ぶべきなのか?」 こうした問いを、机の上だけで考えていても「納得解」は生まれてきません。だからこそ、学校での学びを実社会へとひらき、社会参画の機会を設ける必要があるのです。高校生が実社会の課題解決に取り組んだり、新たな価値を生み出すことは、容易なことではありません。しかし、そこにチャレンジする経験こそが、自分の人生や社会、そして未来の当事者意識を育てるのではないでしょうか。
その意味で、「普通科改革」に求められているのは包括的なキャリア教育と言っていいでしょう。他領域や実社会に開かれた学びを通じて、それぞれのつながりを実感しながら、自分なりの「学ぶ意味」「働く意味」、そして「生きる意味」を見出したり、あるいは更新したりしながら、自分らしいキャリアを描いていく。そうした仕組みをカリキュラム全体として実現すること、ここに「新しい普通科」の「新しさ」があると純真高校では考えています。
「新しい普通科」としての「共創科」
以上のような文脈で開設されたのが、純真高校の「共創科」です。
「新しい普通科」として設置されているため、「共創科」では、合計10単位の学校設定教科・科目及び総合的な探究の時間(1年次「探究基礎」・「理数探究基礎」2,3年次「探究実践(旧 キャリア探究)」「情報探究」「理数探究」)や裁量的な時間が設けられており、生徒が教科学習を総合し、実社会とのつながりの中で自らの生き方をじっくり考えられるようになっています。
さらに、合計10単位の学校設定教科・科目及び総合的な探究の時間では、ICT機器等を活用した探究的・文理横断的・実践的な学びが実施され、その充実のために必要な外部専門人材(探究アドバイザー、コンソーシアムメンバー、哲学プラクティショナーなど)を活用した授業も計画されており、学びを校内に閉じない構成となっています。
例えば、すでに実施されている「探究基礎」という科目は、問いをもつ姿勢や習慣に加えて探究の型を身につけつつ、与えられた枠組みの中で自ら問いを立て深めていくという探究の一連の流れを実践することを目指して構築された科目です。2年次からはじまる「探究実践」「理数探究」が社会との接続を意識し、実現可能性を見極めながら行っていくのに対して、「探究基礎」では、ありたい姿をイメージしながら、他者や自己と対話しながら、自らの興味・関心がどこにあるのかを考え、キャリア形成につなげていきます。
もともと地域課題に興味がある生徒は別ですが、多くは入学と同時に、地域課題を解決すると言われても、何から手をつけていいか分かりません。そういう状況に対して、教員が主導して探究活動を行なってしまうと、生徒のモチベーションは続かず、所謂「やらされ探究」につながっていくと考えられます。そこで、純真高校ではまず自分のことを知ったり考えたりしながら、色んなことに疑問をもっていいんだというマインドの醸成をできるだけ丁寧に行っているというわけです。
「哲学対話」もその一環です。「哲学対話」とは、哲学プラクティショナーという専門人材を活用し、日常的な問いからはじまる対話を通して、人との違いを知ったり、自己の輪郭がどこにあるのかということを考えるきっかけを生み出していく場です。生徒の振り返りを見ると、質問や意見を発した生徒だけでなく、質問や意見を発しなかった生徒の中にも、気づきや疑問が生まれています。回を重ねるごとに少しずつ、あるいは急に振り返りの解像度が高くなり、なんとなくもっていた疑問に深みが生まれたりします。「共創科」としては1年目、純真高校としては「哲学対話」も3年目となりましたが、毎年、その効果に驚かずにはいられません。
また、こうした校外との連携は「探究基礎」のみで行われるわけではありません。2年次の「情報探究」では久留米工業大学と連携したカリキュラム開発を行っています。久留米工業大学は、地域課題解決型AI教育プログラムにおいて、文部科学省認定MDASHリテラシープラス/応用基礎プラスに認定された大学であり、純真高校における情報リテラシーレベルの向上に欠かせないパートナーです。(http://aail.kurume-it.ac.jp/education/)
「情報探究」を先行的に行なっている「普通科キャリア探究コース」においても、AI・データ分析などを実際に手を動かしながら経験を重ねている姿をよく見られ、デジタル社会における価値共創に必要なスキルが育ってきているように感じます。久留米工業大学で毎年行われている「課題発見・解決型 高大接続 教育プログラム『AI×工学 探求学習』」でも賞状をもらって嬉しそうでした。
その他、国語と情報の教科横断型授業や、福岡大学落語研究会による落語鑑賞会、九州歴史資料館や、企業教育研究会とのコラボレーションなど、すでに数多くの連携授業が実施されています。
もっとも、生徒の学びだけを社会に開いているわけではありません。探究的な学びを実施するには、教員の考え方をアップデートする必要があります。そこで、純真高校では、探究アドバイザーの佐藤真久先生(東京都市大学)を講師としてお招きし、教師向け研修を毎年実施しています。
さらに言えば、コンソーシアムや学校行事、出前授業を通して、地域の住民や中学生、保護者等に対し、「新しい普通科」の設置・普及を図るための広報活動も併せて行っています。特にオープンキャンパスでは、その成果の結実とも言える生徒による学校紹介や授業の時間などを設けることにより、探究的な学びがもたらす効果をお見せしています。
以上のように、純真高校の「共創科」は、教育を関係性の中で捉え直し、キャリア教育へとつなげていく学科となっています。学校の中だけで完結する教育から、大学・企業・地域住民と共につくり上げる教育に。そこで重要となってくるのは、多様な他者との関わりを通して、振り返りと改善を繰り返し、常に最適解を追い求めることでしょう。対話を重ねながら、共創科という「新しい普通科」の可能性を、これからも皆さまと共に広げ続けていけたらと考えています。
投稿者プロフィール

- 教頭 兼 高校魅力化推進部部長 男子バスケットボール部顧問
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前向きになれる、好きになれる学校づくりができるように日々努めています。小さい頃は勉強が好きで、バスケットボールに出会ってからは、ずっとバスケットボールをしていました。教員になる前に、学問の世界に飛びこび、学問の魅力に再度取り憑かれました。勉強でもスポーツでも、やらされるものだと結局上達しませんし、身につきません。
少しでも前向きになってもらう、少しでも好きになってもらう、あるいはもっと前向きに、もっと好きに。
そんな学校であるために、これからも頑張ります。
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