デジタルコミュニケーションがもたらした純真高校のDX
高校でも中学校でも小学校でも幼稚園でも…種々様々な情報が大変多く飛び交うのが、学校です。そのような場におけるデジタルコミュニケーションの導入は、組織に質的・構造的転換をもたらし、改善し続けることのできる組織体制の構築に大きく寄与したと考えています。
デジタルコミュニケーションの導入
2021年度にGoogle Workspaceを導入した純真高校では、業務上のコミュニケーションの基本が意識的にも無意識的にも、口頭からChatに変化していくことによって、次のような変化がもたらされました。
- 対面→非対面
- 同じ場所で共有しなければならないという場所の制約から解放され、非対面でのコミュニケーションが可能となった。
- 同期→非同期
- 必ず同じ時間を共有しなければならないという時間の制約から解放され、非同期型のコミュニケーションがやりやすくなった。
- 個別→一斉
- 同じ時間・同じ場所にいなければ、一斉に情報共有することはできなかったので、同じことを個別に情報共有していったり、一斉に共有するために、無理に議論を急ぐこともあった。しかしながら、業務上のコミュニケーションの基本が、対面からChatに変わることによって、時間と場所という制約を受けずに一斉に情報共有ができるようになったため、個別に情報共有していく手間や無理に議論を急ぐ必要性がなくなっていった。さらに言えば、Chatの予約送信機能を用いることで、職員の業務時間内に限定して、情報共有を行うこともできるようになった。
- 情報の記録とその解像度の向上
- 口頭によるコミュニケーションでは残りにくかった決定事項や相談内容の記録が残るようになり、情報の整理や振り返りがしやすくなった。情報を読み返すこともできるため、口頭で何となく理解していたことの詳細が分かるようになり、意見交換や問題提起がしやすくなった。
どれほど真摯に業務へ取り組んでいても、業務上のコミュニケーションの基本が口頭である限り、組織の成長には限界があります。なぜなら、口頭によるコミュニケーションは、感情をこめやすい一方で、どうしても伝言ゲームの要素を多く孕んでしまうからです。人が一度に処理・保持できる情報量には限りがあり、聞いた直後から始まる忘却によって、記憶の抜け漏れが必然的に発生します。
その結果、一生懸命に口頭で説明するほど、話し手側は丁寧に伝えたという満足感を得ますが、聞き手の頭の中に正確に再現されていないことが多く、伝えた達成感と伝わった正確性という話し手と受け手のズレが起きやすくなってしまうのです。そこにやり切れない気持ちを抱えてしまう人も多いでしょう。
こうした口頭によるコミュニケーションが抱える構造的な課題は、テキストによるコミュニケーションを業務の基本に据えることで解消されます。テキストコミュニケーションの最大の強みは、情報の可視化と再現性の高さです。言葉が記録として残ることで、記憶の風化に頼る必要がなくなり、いつでも誰でも同じ正確な情報に立ち返ることができます。
これにより、伝えた側と受け取った側の認識のギャップがその場で一目瞭然となり、双方の解釈を正確に揃えることが可能になります。個人の熱意や努力がその場限りのやり取りで消えることなく、蓄積されていくのです。さらに、そうした蓄積を、一度に全員へ直接届けられるため、伝言ゲームによる情報の歪みも発生しません。誠意や努力という貴重なエネルギーを確認やすれ違いの修正に費やすのではなく、本来注ぐべき教育や価値の創造に集中させることができるのです。

過去に陥っていた悪循環と実現されつつある好循環
学校という組織は、授業や生徒指導、分掌業務など多岐にわたる業務を常に抱えているという特性があります。このような複雑な環境において、口頭によるコミュニケーションを基本とすれば、組織内にはどうしても無理が生じてしまいます。
本校でも、かつてはこうした口頭特有の時間・場所の制約や認識のズレに対処するため、時間を合わせて集まる急な会議が頻繁に設定されていました。急な会議は教員に予定の変更を強いるだけでなく、手作業での議事録作成という重い事務負担を生み出し、結果として会議自体の質を下げてしまいます。曖昧な議論のままでは決定事項の解像度も低くなり、現場の教員は生徒のためにどうにかしようと個人の残業でカバーしようとするため疲労困憊し、さらなる他業務への皺寄せがいってしまうという、苦しい悪循環に陥っていました。
しかし、デジタルコミュニケーションの導入により、この状況は自然と好転していきました。もちろん、導入時の一時的な負担感の増大はあったかと思いますが、デジタルの導入が、組織に良い変化をもたらしていったのです。
その理由としては、やはり同じ時間・同じ場所を共有しなければならないという制約から解放されたことが大きいと考えられます。相手の空き時間を探して奔走したり、無理に人を集めて議論を急いだりする必要がなくなったことで、教員に時間的・心理的な余裕が生まれました。
テキストコミュニケーションが基本となると、文字にして伝えるというその性質上、発信者は自分のペースで必然的に思考を整理するようになります。これにより、まずは日々の細かな相談や業務連絡における論理性が上がりました。時間に追われて慌ただしく口頭で済ませていた頃とは違い、テキスト化していく、あるいはテキスト化する余裕が生まれたことで、日常の些細なやり取りの段階から思考が整理されるようになったのです。対面の会議においても、録音データをもとにAIが議事録を作成するため、教員の負担はほとんどありません。
ここで重要なのは、正確な記録が残ることで、個々の記憶に頼る必要がなくなったことでしょう。口頭を中心とする組織では、行事やプロジェクトが終わるたびに貴重なノウハウが個人の頭の中に消えてしまい、翌年また「去年はどうやっていたっけ?」とゼロから思い出しながら進める非効率が起きがちです。しかし、あらゆるやり取りや議事録がテキストデータとして蓄積・検索可能になることで、状況は好転していきました。「去年のあの時、何が課題でどう解決したか」「誰がどのような手順で動いたか」という客観的なログに誰もがいつでもアクセスできるため、事実に基づいた確実な振り返りが可能となります。さらに言えば、「こことここの作業は重複しているから統合しよう」「この手順は毎年つまずくから、仕組み自体を変えよう」といった具体的な改善案も生み出しやすくなります。
個人の中にしかなかった経験や感覚は、データとして記録されていくことで、組織内で共有される知的財産となります。すると、そこに議論が生まれ、それが業務の整理・削減に、さらなる改善につながっていく。そうした好循環が、今まさに動き出しているのです。

対面コミュニケーションの重要性・非対面コミュニケーションの重要性
もっとも、デジタルコミュニケーションの導入がもたらしたものはそれだけではありません。改めて、口頭による対面コミュニケーションの良さを確認することもできましたし、対面と非対面のコミュニケーションの住み分けについても理解が深まり、それぞれ貴重な場として機能し始めています。
対面のコミュニケーションは、意見を交わしながら、イメージを擦り合わせ、共通理解を言語化する場として重要です。当事者意識をそこなわない主体的な取り組みの実現には、こうした場づくりが欠かせません。一方、テキストを主とした非対面コミュニケーションは、決定された方針をもとに、具体案の共有や進捗確認等を行いつつ、確認し合う場として重要です。実際に取り組みを推進していくために欠かせない場であり、質問したり、立ち戻る必要性について各々が吟味する場としても機能します。

純真高校における象徴的なDX事例
純真高校のDXにおける象徴的な事例としては、朝礼の廃止が挙げられます。言うまでもなく、朝礼は同じ時間・同じ場所で行われるものですが、問題はそれだけではありませんでした。実際に朝礼で行われていたのは、口頭による資料の補足というより、口頭による説明でした。朝礼という短い時間の中で情報を共有するには難しいものも多く、その意味では「朝礼」が朝礼の役割を十分に果たせていなかったとも言えるでしょう。
そこで、導入したのが「連絡事項スプレッドシート」です。より見栄えの良いアプリ等は多々ありますが、Google Workspaceの「スプレッドシート」というアプリは比較的使い手を選ばないため、「朝礼」という慣れ親しんだものの代替として、導入するには適切と考えられました。
「連絡事項スプレッドシート」では、記入された情報を見る・読むことによって情報を受け取ることができるため、伝言ゲームの要素を減らすことができました。また、「連絡事項スプレッドシート」で情報を共有するには、事前に入力する必要があるため、連絡事項の一定の計画性や論理性を担保するという意味でも、良い方向に働いているように見受けられます。
また、「連絡事項スプレッドシート」には、「時間割変更」「勤怠連絡フォーム」「外出届」「研修振り返りフォーム(校外)」「部活動記録簿」「法人事務局・大学・レストラン等内線番号」「各種マニュアル」などのリンクが記載されており、情報の一元化にも貢献していると言って良いでしょう。
その他、現在ではGoogleカレンダーに登録された年間予定を全職員が参照できるというだけでなく、自身の予定をGoogleカレンダーに登録している職員も多く、会議時間の設定等に一役買っています。さらに、Google カレンダーの機能を用いた「教頭相談予約フォーム」も導入し、教頭の空き時間の中から相談できるまとまった時間を予約することも可能となる等、組織として、限られた時間を有効に使う文化が浸透してきています。

デジタルコミュニケーションがもたらした質的・構造的変化
これまで述べてきたように、デジタルコミュニケーションの導入は、時間や場所にとらわれない働き方を可能にしただけではありません。それは本校の組織そのものに、質的・構造的変化をもたらしました。
ここには書き切れませんでしたが、口頭報告を中心とした環境では、どうしてもパワーバランスの問題も発生します。口頭での話し合いは常に時間が限られているからです。限られた時間の中で結論を出そうとすれば、一人ひとりの意見を聞くのは難しく、どうしても立場によって時間が配分されてしまいます。しかし、時間と場所の制約がないテキストコミュニケーションであれば、誰もが自分のタイミングで平等に意見を発信することができます。また、紙ベースでのアンケート集計など、職員の労力と時間を奪う煩雑な事務作業も大幅に解消されます。
純真高校では、そうして生み出された時間と心のゆとりによって、授業改善をはじめとする教員が力を割くべき教育活動にしっかりと注力できる環境が整いつつあります。また、日々の業務に忙殺される状況から脱却し、ライフ・ワークバランスを実現できる教員も増えています。生み出した時間を活用して論文執筆に取り組んだり、海外留学を検討したりするなど、新たなチャレンジを始める教員も現れ始めました。(M-1に出場している職員もいます。)
このように見てくると、純真高校におけるデジタルコミュニケーションの導入は、単なるツールの変更ではなく、教員の意識と行動を変え、組織の文化をアップデートする質的・構造的変化につながっていると言ってよいと思っています。
この大きな変化は、教職員全員の協力と前向きな姿勢があったからこそ実現できたものです。だからこそ、純真高校はこの新しい文化を大切にし、これからも現状に満足することなくアップデートし続ける組織でありたいと考えております。
投稿者プロフィール

- 教頭 兼 高校魅力化推進部部長 男子バスケットボール部顧問
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前向きになれる、好きになれる学校づくりができるように日々努めています。小さい頃は勉強が好きで、バスケットボールに出会ってからは、ずっとバスケットボールをしていました。教員になる前に、学問の世界に飛びこび、学問の魅力に再度取り憑かれました。勉強でもスポーツでも、やらされるものだと結局上達しませんし、身につきません。
少しでも前向きになってもらう、少しでも好きになってもらう、あるいはもっと前向きに、もっと好きに。
そんな学校であるために、これからも頑張ります。





