職員研修レポート:佐藤真久教授「探究の自律化モードへの挑戦 〜自己課題、運用、社会参画を通して、学びを方向付ける人間性を育む〜」
2026年6月19日、純真高等学校において、本校の探究アドバイザーを務める佐藤真久先生(東京都市大学大学院環境情報学研究科)を講師としてお迎えし、全教職員を対象とした校内研修を開催しました。テーマは「探究の自律化モードへの挑戦 〜自己課題、運用、社会参画を通して、学びを方向付ける人間性を育む〜」です。
現在、全国の学校で探究学習が本格化する中、純真高校における令和8年度の第1回目校内研修は、新しく入職された先生方とともに改めて、「探究」とは何か?「探究的な学び」の理論的な背景を学びつつ、「総合的な探究の時間」に終始しない「教科からの探究」のイメージづくりをする時間としました。
今回の研修は、中央教育審議会(中教審)の最新議論や2040年を見据えた「N.E.X.T.ハイスクール構想」といったマクロな教育政策の動向から、AI時代に求められる「生きる意味」「働く意味」「学ぶ意味」、そして各教科からの探究に関する「未来共創新聞」に至るまで、教育のあり方を根底から問い直す白熱した時間となりました。
ここではその研修について簡単にお話できればと考えています。前半は、ディスカッションを交えながら、「探究的な学び」の最前線を走る佐藤先生から理論的な説明をして頂きました。
AI時代における「生きる意味」「働く意味」「学ぶ意味」
2026年4月、ChatGPTが、東京大学・京都大学の入試問題において最高点を上回り「首席合格レベル」に到達しました。このAI時代を象徴するニュースは、知識を記憶し、与えられた問いに対して正しい解を導き出すという教育のあり方を根底から問い直す必要性を示しています。
また、現代日本の若者や労働者は「生きる意味・学ぶ意味・働く意味」を見失っていると考えられます。というのも、いくつかのデータを参照すると、次のことが分かるのです。
- 自己肯定感と未来への希望の低さ(生きる意味の揺らぎ)[日本財団調査]:「自分のしていることには目的や意味がある」「将来の夢を持っている」などの項目において、日本の若者は欧米や他のアジア諸国に比べて10ポイント以上低く、最下位圏に沈んでいます。
- 世界最低水準のエンゲージメント(働く意味の喪失)[Gallup調査]:日本企業の「従業員エンゲージメント(仕事に対する熱意や主体的な関与)」はわずか6%であり、世界平均(23%)を大きく下回る世界最悪レベルです。「何のために働くのか」という確固たる意味を持てずに働く大人が多いことを物語っています。
- 社会人の学び直しの欠如(学ぶ意味の喪失)[パーソル総合研究所調査]:社外で自己研鑽を行わない人の割合は、日本では52.6%(アメリカは15.7%)と突出して高く、「学校を卒業したら学びは終わり」という意識が定着しています。
- 自律学習に対する自己効力感の低さ[OECD PISA2022]:「自律的に学ぶ自信があるか」という指標において日本はOECD37か国中34位であり、自分で学習を計画・調整する自信が著しく欠如しています。
このままいくと、「生きる意味」「働く意味」「学ぶ意味」を見失う人々はAI時代においてさらに増えていく可能性が高い。こうした課題の解決策として、文部科学省より示されているのが、「探究的な学び」なのです。


国の教育改革動向と「学びを方向付ける人間性」
本校が認定されているDXハイスクールや今年度より文部科学省や中教審が進める高校改革のグランドデザイン「N.E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想」もそうした文脈から生まれています。「N.E.X.T.ハイスクール」では、2040年までに文理横断的な学びに取り組む普通科高校を100%にし、「文系・理系」という境界を取り払って、複雑な社会課題に向き合う統合的な知を育むことが目指されており、次のことが重要視されています。
- New Transformation(学びの在り方の転換):リアルとデジタルを融合し、「好き・得意」を伸ばす柔軟な学び。
- New Education(特色化・魅力化):文理横断・STEAM教育の実践と、社会や産業界と協働した高度な探究。
- New Excellence(機会の確保):あらゆる生徒の可能性を最大限に引き出す環境整備。
DXハイスクールにせよ、N.E.X.T.ハイスクールにせよ、文部科学省が危機感を抱き、従来の「文系」「理系」といった枠組みを含めて、教育改革を推し進めようとしていることがわかります。
そうした中で重要視されているのが、「学びに向かう力、人間性など」です。「学びに向かう力、人間性など」は、中教審(2025-2026年)の審議において、教育が目指すべき資質・能力の核心として再整理されつつあります。
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教育改革に関する世界の動向
佐藤先生には、こうした教育改革の流れを世界の動向を含めて、わかりやすく理論的に説明して頂きました。
世界経済フォーラム(WEF、2023)による「グローバルリスクに関する相互連関マップ」が示すように、現代社会は、経済・環境・地政学・社会・テクノロジーという様々な分野・レベルのリスクが複雑に絡み合う不確実な時代を迎えています。
そのような時代においては、悪魔を倒して村に平和が戻る、所謂、鬼退治のような仕方(絶対解の追及、線形的な問題解決)では、たちうちできません。私たちが生きる現代の課題(地域の衰退、地球環境、多様性の包摂など)は、原因と結果が複雑に絡み合い、一つの正解が存在しない複雑(Complex)でやっかいな(Wicked)であり、鬼を倒せば平和が戻るといった単純(Simple)な話にはならないのです。
むしろ、鬼が何かさえも分からない、そのような時代といって良いでしょう。だからこそ、現代の我々には、「学びの作戦変更」が必要なのです。正解が通用する時代においては、一つの答えを出すために、間違えずに進めるように学ぶこと、個々が自分の役割で結果を出すことが求められます。しかしながら、正解がない時代においては、問いを設定したり、試行錯誤し、失敗から学ぶ姿勢、互いに持ちより、相互作用するプロセスから生み出していくことが求められます。
知識やスキルを現場で使いこなすことを目的とし、周りの人、現場で起きることをリソースとしながら、講義では視点を得たり、視座を高め、未知の状況にトライし、失敗を通して自分のものとする。自分の内省からの答えを出していく、自己主導的な学び(学びほぐし)が重要となります。
「探究的な学び」においてもこれは同じです。矛盾がないとか、深く掘り下げているか、幅広い可能性を視野に入れているかという「探究の高度化」のみならず、自分によって関わりが深い課題となり、その過程を自分の力で進め、得られた知見を活かして社会に参画しようとする、「探究の自律化」が重要になってきます。
そこで求められるのが、自分の中にある「もやもや」や「わくわく」をもって「知的修羅場体験」にのぞみ、他者とともに「最適解の更新」をしながら、自分なりの「学ぶ意味」を見出すという経験ないしプロセスなのです。
純真高校では、こうした「探究モードへの挑戦」に向けた取り組みが広がっています。対話やモチベーショングラフ、SSDSEの活用による言語・情報活用能力の育成をはじめ、国際交流や複文化・複言語の視点、コルブの経験学習スタイルやWW型問題解決モデルを取り入れています。また、教科や部活、学校行事など多様な場で科学的探究アプローチや内発性を重視し、個人・協同の探究を推進しています。広報による意味づけや、図書館・保健室の充実、廊下のデザイン、ラーニングコモンズの構築といった学習環境整備も進められようとしています。そうしたお褒めの言葉も頂きました。
「教科からの探究」を通して「学ぶ意味」を
「探究的な学び」は、「総合的な探究の時間」だけに限ったものではありません。日々の各教科の授業の中に探究の要素を組み込む「教科からの探究」の実践が鍵となります。「各教科からの探究」と「総合的な探究の時間」の相互作用が、生徒の「学びに向かう力」を育てるために重要となります。
そこで、今回の研修では、「純真・未来共創新聞 2030(各教科からの探究)」と称して、生成AIもブレインストーミングの相棒として使いながら未来の「ありたい姿」を描くことをもって、研修のまとめとしました。








生徒が自ら人生の舵を取るために
今回の佐藤真久教授による研修は、純真高等学校の教職員にとって、教育の根底にある「何のために教えるのか」という原点を再確認する濃密な時間となりました。職員の振り返りでは、「『何のために〇〇を学ぶのか』という教科のコアの部分をしっかり持たなければならない」「横並びの先生とのコミュニケーションが大切(中略)自分が実践して上手くいったことは共有するスタイルでやっていこうと思っている」「小さな成功体験をさせていくことで、興味・関心を持ち続けられる大人に育てていく必要性を感じた」といった、大変心強い言葉も頂きました。
AIが社会のあり方を激変させ、従来のような「一筋縄ではいかない時代」を生きる子どもたちに必要なもの。それは、テストの点数や偏差値だけではなく、「自分は何のために学ぶのか(学ぶ意味)」「どう社会に貢献するのか(働く意味)」「いかに豊かに生きていくのか(生きる意味)」を自分の言葉で語り、行動に移せる自律性です。
教員には、知識を与える指導者としてのスキルだけでなく、生徒が抱くもやもやに寄り添い、共に学びほぐしながら自律的な歩みを支える伴走者としてのスキルも必要になってきます。
そうした変化は、決して簡単なことではありません。ただ、純真高校の職員の中からは「教員がティーチングだけでなく、コーチングやファシリテーションなど、意図的に使い分けていく必要があるが、若手は経験が少なく(中略)教員用プログラムを考えていく必要がある」「私は特にコーチングとファシリテーションの力が弱いと感じているので、頑張りたい」といったように、すでに自ら課題感をもち、変化に対して前向きな言葉がでています。とすれば、あとはその悩みを共有し、我々自身が学んでいけばよいだけです。
こうした心持ちにさせてくれた佐藤先生、本当にありがとうございます。純真高等学校は、これからも生徒一人ひとりが「自らの人生の舵」をとり、生き生きと未来を拓いていけるよう、職員も「探究の自律化」への挑戦を続けてまいります。
【講師プロフィール】

佐藤 真久(さとう まさひさ)氏 (東京都市大学大学院 環境情報学研究科 教授)
筑波大学第二学群生物学類卒業、同大学院修士課程環墳科学研究科修了。英国国立サルフォード大学にてPh.D.取得(2002年)。地球環墳載略研究機関(IGES)の第一・二期戦略研究プロジェクト研究員、ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)の国際教育協カシニア・プログラム・スベシャリストを経て現職。現在、UNESCO ESD-Net 2030 フォーカルポイント、UNESCO Chair(責任ある生活とライフスタイル)国際環事会還事、JICA教師海外研修(SDGs)学術アドパイザー、文部科学省•WWLコンソーシアム構薬支援事業運営指導委員、東京大学附属学校教育高度化・効果検証センクー協力研究員、ESD 活動支援センターネットワーク可視化委員会座長、SEAMEO-JAPAN ESD アワード国際審査委員会委員、IGES シニア・フェローなどを務める。協働ガパナンス、社会的学習、中間支援機能などの地減マネジメント、組織論、学習・教育論の連関に閲する研究と実蹟を進めている。
以下を歴任、
・アジア太平洋地域DESD 国連組織間諮問委員会テクニカル・オフィサー
・国運大学サステイナピリティ高等研究所客員敦授
・北京師範大学大学院客員教授
• UNESCO ESD グローパルアクションブログラム(PN1:政策)共同議長
・環墳省SDGs を活用した社会問題・環墳問題同時解決支擾事業委員長
・「国連•ESDの10年」ジャパンレポート有識者委員会座長、ESD円卓会議委員・JICA技術専門員(環境教育)
• IGES-UNEP 環境技術連携センター・テクニカルオフィサー
• ESDコーディネーター(文部科学省事業)
• NPO 法人ETIC .(社会起業家のためのインキュベーション・プラットフォーム) 理事
・文部科学省・ユネスコ未来共創プラットフォーム事業座長
・国際能力開発プログラム 、LEAD(Leadership for Environment And Development、米国ロックフェラー財団、事務局は英国ロンドン大学)の日本事務局・学術コーディネーター(システム思考)、ほか
編著書は、『SDGsの基硼』/『SDGsの実謹』(事業構想大学院大学)、『SDGs 時代のバートナーシッブ』/『SDGs とまちづくり』/『SDGs と環境教育』/『SDGs 時代の教育』(学文社)、『SDGs 探究BOOK 』/『SDGsライフキャリアBOOK 』/『SDGs ダイパーシティBOOK 』(宣伝会議、監修)、『探究 × SDGs 』(朝日新聞)、『ソーシャル・プロジェクトを成功に導く12ステップ』/『SDGs 人材から‘ノーシャル・プロジェクトの担い手へ』(みくに出版)、『CLIL 英梧で学ぷSDGs の基礎ーCLIL Primary SDGs 』(三修社)、『SDGs のサバイバル』(朝日新聞出版)ほか多数、SDGs 時代のESD と社会的レジリエンス研究叢書(筑波書房)主宰
【参考・引用データ文献一覧】
- 日本財団「18歳意識調査(自分自身について)」
- Gallup "State of the Global Workplace 2024"(文部科学省作成資料)
- パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」
- OECD「生徒の学習到達度調査(PISA 2022)」
- 文部科学省「2040年に向けた N-E.X.T. ハイスクール構想」
- 中央教育審議会「総則・評価特別部会 資料(2025-2026年)」
- 帚木蓬生『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』(朝日選書)
- 佐藤真久・広石拓司『ソーシャル・プロジェクトを成功に導く12ステップ』(みくに出版)
投稿者プロフィール
- 教頭 兼 高校魅力化推進部部長 男子バスケットボール部顧問
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