学びのDXーデジタル化を超える純真高校のDXー
教育DXは、校務DXと学びのDXの2つで構成されます。前回の「デジタルコミュニケーションがもたらす純真高校のDX」では校務DXについて記しましたので、今回は、学びのDXに関する純真高校の取り組みをご紹介できればと考えています。
デジタル社会を生きる
現代社会をデジタル抜きに語ることはできません。通信販売の拡大により、近年は店舗をもつ意味を再考する企業も多くなりました。オンライン会議の普及により、対面会議の意味を考える企業も多くなりました。そうせざるを得なかった、あるいは、それしか手段がなかったために、これまで当たり前に行っていたことを、見直す時代となっているのです。その意味で、デジタルという手段は社会のあり方を根底から考え直すきっかけを与えてくれています。
オンラインショッピング、オンライン会議、あるいはオンラインゲーム、例を挙げるときりがありませんが、これらはデジタルがもたらした新しい場ないし時間です。このような新しい場や時間をどう位置づけるのか、同時に、新しい場や時間が生まれることによって相対化される、例えば、店舗販売、対面会議など、これまで行ってきたことをどのように意味づけるのか、デジタル技術が発達する現代社会では、こうしたことを考える必要性がでてきました。人間による社会の再構成が求められていると言ってもいいかもしれません。
重要なのは、社会の構造が変われば、求められる価値やその生み出し方も、必然的に変化するということです。価値を生み出す必要性自体は従来の社会と変わりませんが、今後は、デジタル社会という新しい関係性を踏まえた上で、価値を創出すべきでしょう。
データ活用が重要視されるのも、そのあたりと関係があります。デジタル社会においては、様々な事象がデータとして蓄積されます。そのような社会においては、当然、データをうまく活用することが、新たな価値の創出につながりやすいと考えられます。
生成AIの著しい発達により、これまで専門家しか行えなかった高度なデータ分析や思考を、誰もが手にできるようにもなりましたが、高度な技術やツールがどれほど身近になっても、そこから提示されたことを意味づけ、活用していくのは人です。そのため、デジタル技術の発達に現場のスキルや考え方が追いつかず、データを扱える人とそうでない人の格差や、意思決定の遅れといった混乱が生じているところも多いかもしれません。どれほど技術が進化しても、新たな社会を動かし、再構成していくのは、やはり人なのです。
だからこそ、社会に出る前の準備段階において、「学びのDX」が必要なのでしょう。文部科学省が推進する「DXハイスクール」や「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール」などの政策においても、大学入学時における情報リテラシーレベルの向上が強く求められているのも、そのためと考えられます。
デジタル社会における学び:純真高校における「学びのDX」
では、近年注目されている「DX」とは、どういうことを指すのでしょうか。
重要なのは、「デジタル化」との違いです。デジタル技術を取り入れたとしても、従来のフロー自体が変わらなければ、それを「DX」と呼ぶことはできません。もちろん、処理速度の向上や効率化を図る「デジタル化」も最初の第一歩としては重要ですが、「DX」とは、デジタル技術を用いることで、その物事のあり方そのものを変えることを指します。言い換えれば、デジタル技術を取り入れても、仕組みや構造に変化が生じなければ「DX」とは言えない、少なくとも純真高校ではそのように捉えています。
生成AIを活用した学び
それでは、デジタル技術を取り入れることによって、その仕組みや構造が変化する「学びのDX」とは、例えばどんなものなのか。純真高校で実際に行った事例を紹介します。
まず、生成AIを活用した学びの事例として、昨年度の研究授業で行われた理科x情報の教科横断型の授業(2025年12月11日)についてお話したいと思います。この授業のテーマは中和滴定です。中和滴定を理解するにあたっては、いくつかの事項を押さえておく必要があり、総合的な理解を深める探究に適したテーマであると考えられました。
授業のゴールは、生成AIを用いて、汎用的な中和滴定シミュレータを作成することです。そのために、まず事前に得られた実測データをもとに、用意された穴埋めプロンプトを使って、酢酸と水酸化ナトリウムの滴定曲線をグラフで示します。その後、余裕のある生徒には、塩基に酸を加えるパターンや多価の酸・塩基を使えるプロンプトを考えさせながら、滴定曲線のグラフにPPとMOの変色域を追加し、シミュレータ作成へとつなげます。
理科としては、適切なプロンプトを用いて適定曲線のシミュレータを作成できること、作成した滴定曲線をもとに色々な酸と塩基の組み合わせから適用できる指示薬を理解することを目標とし、情報科としては、実験条件を正確に整理し、目的に応じて適切なプロンプトを作成できること、AIが生成したコードの基本構造を理解し、滴定曲線の可視化に必要な要素を説明できること、出力結果を批判的に確認し、自ら追加プロンプトを用いて改善できることを目標として行いました。




授業のポイントは、グラフを作成するという知識の再現ではなく、生成AIにグラフを作成させるというところにあります。なぜなら、生成AIに書かせることによって、滴定曲線の本質的な理解やそこに付随する知識の総合的な理解につながると考えられるからです。
自ら手書きでグラフを再現することはさほど難しいことではありません。しかし、自分以外に書かせるとなるとグラフの説明をしなくてはならなくなり、そこには本質的な理解と言語化が必要となります。もっとも、他の生徒に書かせても同じような効果を得ることはできますが、実現可能性を考えた時に、すでに理解している人ではなく、まだ習っていない人に教えるという授業は難しくなります。そういう意味でもデジタル技術(生成AI)を用いることが効果的と言えるでしょう。


「最初に作成したグラフ」は、教員によってある程度準備されたプロンプトを用いるため、手軽に作成することができますが、「見本を見て改良したグラフ」はそうはいきません。
生徒は、最初に作成したグラフと教科書のグラフを見比べ、その違いを考えます。その違いが変色域の有無にあることはすぐに気づくと考えられますが、それをどのように生成AIに説明したら良いかということは一筋縄ではいきません。生徒は、変色域という概念を思考し、言語化していきます。そして、言語化した内容を生成AIに指示しながら、トライ&エラーを繰り返します。
このように、グラフを作成するという授業も、生成AIに指示をするという形式をとることでより豊かな意味をもちます。変色域を追加することは、手書きで行えば簡単できます。しかしながら、生成AIにそれを指示するためには、感覚的になんとなくおさえていることを言語化し、論理的に説明する必要があるのです。その意味では、生成AIを用いることによって、授業の中に新しい時間・新しい学びが創出されたと言えます。

変色域を含むグラフが完成したら、次はそれを酸と塩基の組み合わせによって変更するシミュレーターを作成します。授業の中にこのステップを入れることによって、生徒はより深い学びに至ります。適定曲線の背後にある原理や変数の関係性を本質的に理解していなければ、AIに対して適切な指示(プロンプト)を与えることができないからです。
シミュレーターを成果物とすることで、生徒が単なる表面的な知識にとどまらず、概念的理解に到達しているか否かということを、授業の中で確認することができるので、フォローもしやすいのが良いところです。また、シミュレーターがきちんと動作するか生徒自身も確認することができるので、自身の説明を振り返り、改善していくということも可能です。
モノを創るという楽しさを味わいながら、思考を深めていくことのできる素晴らしい授業だったと私は思っています。
データを活用した学び
データを活用した学びについては、SSDSE(教育用標準データセット)を用いて行っています。数値という客観的なデータを「共通言語」として共有・活用することで、多様な他者との探究的な学びをより深められると考えているからです。また、これからの社会で求められる「文理横断的な学び」や「文理融合」といった考え方にもつながると考えています。
小テストのデジタル化によってもたらされる個別最適化された学び
その他、小テストのデジタル化を行った例もあります。小テストをGoogle フォームの形式に落とし込み、そこに解説を付すことで、個別最適化された時間の創出ができます。設定をすれば、順番も都度ランダム変更されるので、機械的に覚えることもなくなります。ゲーム感覚で行えるためか、生徒たちが覚えるのも速く、慣れてくると1,2回で満点をとる生徒も多かったです。
また、教員としては、誰がどこでつまづいているのかということも把握できるため、個別の声かけも行いやすくなります。自主的にも行えるように設定することで、電車や休み時間に自ら進んで取り組んでいる生徒もよく見られました。その意味では、小テストのデジタル化という小さな試みも、新たな時間や場を創出につながったのではないかと考えています。



投稿者プロフィール

- 教頭 兼 高校魅力化推進部部長 男子バスケットボール部顧問
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前向きになれる、好きになれる学校づくりができるように日々努めています。小さい頃は勉強が好きで、バスケットボールに出会ってからは、ずっとバスケットボールをしていました。教員になる前に、学問の世界に飛びこび、学問の魅力に再度取り憑かれました。勉強でもスポーツでも、やらされるものだと結局上達しませんし、身につきません。
少しでも前向きになってもらう、少しでも好きになってもらう、あるいはもっと前向きに、もっと好きに。
そんな学校であるために、これからも頑張ります。
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